哲学をビジネスに。-思考武器の育成-

哲学、もっと言うとリベアルアーツ、教養を身につけることでビジネスで活躍、より生きやすくなる人を生産していきたい。

5分で哲学-平等なのは不公平?-

ジョンとマーガレットは息子たちへのクリスマスプレゼントを買いにでかけた。息子は3人で、マシューは14歳、マークは12歳、ルークは10歳だ。愛情深い両親は3人を常に平等に扱うように心がけていた。今年のプレゼント用予算はひとりにつき100ポンド、と既に決まっている。

今回の買い物には、何の問題もなさそうに見えた。目当ての品物はすぐに見つかった。携帯式の”プレイボーイ”ゲーム機で、ひとつ100ポンドだ。ゲーム機を3つレジに持っていこうとしたとき、ジョンが店内に貼られたお知らせに気づいた。

150ポンドの最新機能型”プレイボーイ・プラス・マックス”を2つ買えば、オリジナルのプレイボーイゲーム機が無料でもらえるという。払う金額は同じで、もっと上等の品が手に入るのだ。
「それはできないわ」マーガレットが言った。「不平等だもの。誰か1人が他の2人よりも劣った物をもらうことになるのよ。」

「でもマーガレット...」ジョンは息子たちから最新型のゲーム機を借りることを考えて、わくわくしていた。「どうして不平等なんだい?元々もらえるはずだった物よりも劣る物をだれももらわないし、3人のうち2人はもっといいものをもらえるんだ。もしこれを利用しないと、2人はもらえるはずの上等な物をもらえなくなる。」

「わたしは、3人を平等に扱いたいわ」マーガレットが答えた。「その結果、損をすることになってもかい?」

ジョン・ロールズ「正義論」

平等、という考え方は大事な一方で、いつ如何なる時も平等を順守する、というのは少し柔軟性に欠ける考え方かもしれない。

ここで平等と公平の語義を確かめてみよう。この図がとてもわかりやすい。

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平等というのは”等しく”与えることで、公平というのは”等しくなるように”与えるという理解ができる。

文中でマーガレットは全ての息子に等しいゲームを与える「平等」を意識していた。確かに等しく与えることで喧嘩にはならないだろうし、プレイボーイ・マックスという最新式ゲームが貰えることを知らなければ届くや否やプレゼントの包装紙をびりびりに破いてすぐさまゲームを始めるだろう(ジョンはその時しょんぼりしているかもしれないが・・)

ただこれだと満足度は100%になるかもしれないが、120%になることはない。むしろ次の日に友達が最新式を持っていて自慢げに見せびらかしをしようものなら、今のゲーム機に不満すら覚えるかもしれない。

一方で、2つの最新式と1つ旧式のゲームを購入して「これは誰が誰のゲーム機というわけではないが、なんと最新式が2つも手に入ったんだ、仲良く使えるかい?」という交渉に子供は真剣なまなざしで一回ゆっくりと頷くのではないだろうか。

ヒトは心理的に最もリスクの低い、言い換えると無難な選択に魅力を感じるものだが、果たしてそれが最善な選択なのかはあらゆる場面で一考の余地がありそうだ。

例えばマネジメントでも平等な扱いをしていれば波風が立つこともないだろうが、図の紫の少年のように「ちぇっつまらないの」と感じている部下がいるかもしれない。

そんな時にみんなが同じ土俵に立てるようにお膳立てしてやるのも1つリーダーとして力の見せ所になるし、分かる部下からの信頼は必ず上がるだろう。今回のロールズの物語からそんなことが学べる。

ただ、だからと言ってさぼって努力をしていない人のために公平な手段ばかりとっているとえこひいきという刃が突き刺さることもあるので読者の皆さんは注意されたい。